人手不足で“外国人材採用”に関心があっても、「どうやって採用すればいいの?」「準備や育成の方法がわからない」「日本語やコミュニケーションは大丈夫?」などとお悩みの介護サービス事業所の方も多いのではないでしょうか。
 そんな皆さんの不安や疑問を解消するために、外国人介護士が活躍している事業所さんを直撃!
外国人材の受け入れ準備から、外国人介護士“3人娘”の入社後1年間の成長の様子、活用成功の秘けつなどまで、連続【成長日記】シリーズとしてレポートします。

【教えてくださった事業所さん】

『デイサービス暖団』

1952年創業の病院内自動搬送設備メーカー『日本シューター』が運営する介護予防デイサービス。2006年に京都西大路に1号店をオープンし、現在、京都と滋賀で3店舗を展開。“自分らしく”をテーマに、『自分でできることは、自分で決定して、自分で動く』という利用者主体の自立支援をサポートする。

知識や技能があれば、国籍は関係ない

人材の確保や定着が進まない……

本シリーズで密着したのは、2019年に京都市の『デイサービス暖団』(以下、『暖団』)さんに入社した3名のベトナム人女性介護士たち“3人娘”。

シリーズ第1回目は、同施設の立ち上げから携わってきた施設長の寺﨑さんに、外国人材採用に至るまでのお話をお聞きしました。

「当施設が外国人材を初めて採用したのは2015年で、日系フィリピン人の女性でした。

外国人材を受け入れることにしたきっかけは、人材の確保や定着が思うように進まなかったことです。そこで、『一定の介護系の知識や技能さえ持っていれば、国籍は関係ないだろう』と考えました」(寺﨑さん ※以下、「」内は同)

ある事業所さんとの出会いが後押しに!

そして、受け入れスタートの大きな後押しになったのが、当時、約10名のフィリピン人介護士が就労されていた福岡県の介護事業所さんとの出会いだったといいます。

「正直、受け入れに不安もありましたが、実際に施設を見学させていただいて一気に解消されました。

フィリピン人の皆さんが、日本人スタッフの方と同じように“一戦力”として働いていらっしゃるのを目の当たりにして、『これならば、自分たちもいけるだろう!』と思えました」

グローバル化への対応が、将来の人材不足も解決

「新しい仕事を覚えていきたい」。「こんなことができるようになりたい」。そんなやる気や意欲があれば、国籍に関係なく介護士として通用すると考えた寺﨑さん。

実際に外国人材を採用するにあたって、『暖団』さんでは“グローバル化への対応”を常に意識してきたといいます。

「将来を見据えると、グローバル化対応は不可欠だと考えています。間口を広げて、選択肢をたくさん持っていれば、人材不足で悩んだときにもスムーズに対応できるはずですから」

外国人材の育成で大切にしていること

「ありがとう」と「ごめんなさい」が言えるか

外国人材を育成するうえで大切にしているのは、「ありがとう」と「ごめんなさい」が言える人間になっていってほしいということだと寺﨑さんは語ります。

「これは、日本人スタッフにも共通する育成方針なのですが、“一番簡単そうで、一番むずかしい”ことかもしれません。

素直さと謙虚さを持って、常に前向きに仕事に取り組める人材に育っていっていただけるようにスタッフ教育を行っています」

さらに、同施設の外国人材の“パイオニア”としての大きな期待も!

「最終的には、今後入社してくる外国人スタッフに対して、先輩として育成・指導ができるような人材に育っていってほしい。それが、私たちが考える理想像です」

“3人娘”を受け入れるための、心の準備

6年ぶりの本格採用で、二つの不安が

外国人スタッフの本格採用は、2014年以来、6年ぶりだったという『暖団』さん。しかも、ほぼ同時に3人を受け入れるということに不安はなかったのでしょうか。

「二つの大きな不安がありました。まず一つ目は、『現場のスタッフたちが外国人材を受け入れてくれるか』ということ。そして、その問題をクリアできたとしても、『ご利用者さまが受け入れてくださるか』という不安もありました」

「なぜ、いま、外国人材なのか」の説明が大切

ほとんどのスタッフさんは、外国人材と働くのが初めて。そのような状況で、寺﨑さんが中心になって、皆さんの不安をゼロから解消していったそうです。

「まずは、『なぜ外国人材採用に至ったのか』ということをきちんと伝える必要があると考えました。

そこで、『人材確保がむずかしい時代になった』という現状などを、ミーティングなどで全員に周知していきました」

また、「特定技能の制度がどういうものなのか」ということもきちんと説明。

「『ただ単に外国人材が来る』のではなくて、『一定の介護の技能や知識を習得したうえで入社してくる』ということをちゃんと理解してもらうことが非常に重要だと思います」

心構えを持つための、「もし、あなたなら?」

さらに、受け入れるための心構えを持ってもらうために、“イメージトレーニング”のような話し合いも行ったそうです。

「会議などで、『もし自分が外国で介護職員として働くとしたら、どんなことで困るか想像してみましょう』と想像するところから始めました。

そして、『それって、今回入社する外国人材も同じだよね』という流れで、想定される例を一つ一つ挙げながら指導していきました」

ベトナム独自の生活習慣や文化の勉強も

当時採用予定だった“3人娘”は、全員がベトナム人。そこで、ベトナムについて学ぶ機会も設けたそうです。

「ベトナム人の方によく見られる性格などの特徴をはじめ、生活習慣や宗教、好きな料理、文化などについて、さまざまな情報を事前に共有しました。

いろいろ勉強しましたが、それでも、3人が入社した後に、まったく知らなかった生活習慣があって驚きました。その内容や対応方法は、次回以降の【成長日記】でお話ししますね(笑)」

既存のスタッフさんに外国人材採用に対する理解を徐々に浸透させていって、「みんなのマインド面も含めた受け入れ態勢ができたかな」と寺﨑さんが思えるまでに約1ヵ月間かかったといいます。

ご利用者さまの反応は、真っ二つに……

“好奇心”と“抵抗感”が入り混じる結果に

そして、ご利用者さまへの説明も同時に進めていきました。

「入社の1ヵ月ほど前の、採用面接を行うタイミングから『もうすぐ外国人材の方が来られるかもしれない』と説明を始めました」

皆さんの最初の反応は、すんなりと受け入れてくださる方と、そうではない方が、大体半分ずつだったようです。

「受け入れてくださったのは、以前にも日系フィリピン人スタッフが働いていたことを知っていて『今度はベトナム人の方なのね』とおっしゃる方や、『外国の方とお話しして、その国の文化などを知りたい』という好奇心旺盛な方々でした。

一方で、日本人以外の方にお世話されることに抵抗を感じられる方も。その方々に関しては、時間をかけて説明をしながらご理解いただく必要がありました」

育成計画のつくり方は?

育成期間は、日本人スタッフの約2倍

外国人材を活用するために大切なもの一つが、育成計画です。当然、日本人向けとは異なる計画が必要になります。

「計画作成を始める際に、『日本語がどの程度通じるか』という点も含めて、日本人スタッフの育成と同じようなスピードで理解・学習してもらうのはむずかしいだろうと考えていました」

そこで、「日本人スタッフの約2倍」という育成期間を目安にしたそうです。

「たとえば『日本人スタッフが3ヵ月で覚える仕事を、6ヵ月かけて研修する』といったイメージです。

少し時間はかかりますが、以前に福岡の施設さんの事例に触れたことがあったので、『1年あれば、ゼロから独り立ちまで成長していってくれるだろう』と考えて、1年間を通じた育成計画をつくりました」

スタッフ全員が参加し、“自分事”としての意識を

育成計画の作成には、当時の施設長や、副施設長だった寺﨑さんだけでなく、スタッフ全員が参加。

「仕事に必要なスキルを段階別にわけて、『1ヵ月後に、こんな風になっていってほしい』といった期間毎の目標や、『そのためには、何が問題で、どうすればいいか』という課題や解決方法などを、みんなで話し合いながら全体の計画を立てていきました。

そして、その計画をもとに、教育マニュアルを作成しました。

ここまで寺﨑さんのお話を聞いて感じたのは、「スタッフさんが“自分事”としてとらえる」ことの大切さです。

実際の育成・教育を行うのは、現場のスタッフさんたち。ですから、初期段階から皆さんを“巻き込む”ことが、最終的な育成計画の成功につながったのでしょう。

計画のステップは、「モノ」から「ヒト」へ

まずは、施設や設備を覚えることから

そして、具体的な計画の内容は――。

「入社直後は、施設のどこに何があるかもわからない状態ですから、まずは当施設や設備を知っていただくところから始めました。

「モノ」について一通り覚えられたら、一緒に働くスタッフ=「ヒト」を覚えてもらうという次のステップに進みます」

日々のあいさつで、ご利用者さまとの関係を構築

その後に、ご利用者さまに対するコミュニケーションスキルの習得をスタート。

「ご利用者さまに直接かかわる繊細な対応が必要な業務は、ご利用者さまとの信頼関係がある程度構築できてから行うことにしました。

まずは、来所・退所時のごあいさつなど、日々の基本的なコミュニケーションだけを実施。それから、『自分のことをご利用者さまにもどんどん知っていただく』という段階に移行しました」

そして、お互いのことが少しずつわかってきたら、トレーニングの指導や入浴の介助などのケアへとステップアップしていきました。

受け入れ体制づくりの成功ポイント

“窓口”になる担当スタッフを一本化

スタッフ全員で立てた、育成計画。それを実行していくための体制・環境づくりには、教育担当の設置が不可欠だったといいます。

「3店舗それぞれに1人ずつ配属する予定でしたので、現場でOJT教育を行う担当スタッフを各店舗1人ずつ事前に選出しました。

そして、3人の入社初日に、『何か困ったことやわからないことがあったら、このひとに何でも聞いてください』とお伝えしました」

この“窓口の一本化”は、結果的に大成功だったようです。

「シンプルな形にしたことで、3人の安心につながったのだと思います」

同性の教育担当で、不安を払拭!

そして、3人とも女性だったので、教育係に女性スタッフをつけたのもよかったですね。やはり、同性同士のほうが、いろいろな話や悩みの相談もしやすいと思いますので」

ちなみに、事前に教育担当を決めておいたことで、育成計画をつくる際にも、その方々が積極的に大きな役割を果たしたという効果もあったそうです。

借り上げ寮で、日常生活の基盤整備も

職場での体制づくり以外に、きちんとした生活の基盤を整えるために、寮も用意。

「3人もそうでしたが、特定技能外国人材の方は、他地域から引っ越してこられるケースが多いと思います。当社ではマンションを借り入れて、寮として提供しました。

それぞれが働く店舗は別々ですが、皆さんに同じ建物内で暮らしていただくことで、お互いにコミュニケーションをとりながら、安心して仕事をスタートしていただけるようにしました」

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今回は、『暖団』さんの外国人材受け入れまでの準備などをご紹介しました。

次回は、「しっかり者のフォンさん」「愛嬌バツグンのトイさん」「クールなハさん」の“3人娘”の採用の実例をご紹介。さらに、入社後1年間の実務スキルの成長ぶりや、『暖団』さんの具体的な計画・対応などもお伝えします。ぜひ、お楽しみにしていてください!

この記事を書いた人

ヤマシタハヤト

ユアブライト株式会社 海外人材担当 主にベトナムに関する情報を発信しております。

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