ベトナム人スタッフの採用を検討する企業担当者から、「ベトナム人は英語でコミュニケーションが取れますか?」という質問をよく受けます。日本語がまだ十分でない外国人材との職場コミュニケーションにおいて、英語をブリッジ言語として活用できるかどうかは、受入れ体制の設計に影響する大切な判断材料のひとつです。

実は、ベトナムの英語教育は近年急速に整備されており、若い世代を中心に英語力の高い人材が増えています。ただし「ベトナム人は英語が話せる」と一括りにするのは危険で、地域差・世代差・学歴差・就業経験によって実態はかなり異なります。

このガイドでは、ベトナム人の英語力が実際どの程度なのか、国際的な指標と教育制度の背景から整理します。在日ベトナム人材のリアルな言語プロフィール、職場でのコミュニケーション工夫、採用面接で確認すべきポイントも合わせて解説するので、採用計画の参考にしてください。

EF英語能力指数から見るベトナムの英語力

ベトナム人全体の英語能力水準を客観的に把握するうえで、EF英語能力指数(EF EPI: EF English Proficiency Index)は信頼性の高い参考データです。EF EPIはスウェーデンの教育機関EF Education Firstが毎年実施する大規模調査で、2023年版は世界111の国・地域を対象としています。

2023年EF EPIにおいて、ベトナムは111カ国・地域中58位にランクインしています。スコアは505点で、能力帯の分類は「中程度(Moderate)」です。

この数字はあくまで国全体の平均値です。ベトナム国内での英語力には大きなばらつきがあり、居住地域・年齢・学歴・就業経験によって実態は大きく異なります。

アジア各国との英語力比較

アジア域内でベトナムの順位がどのあたりに位置するかを確認しておくと、感覚がつかみやすくなります。EF EPI 2023のアジア主要国の順位はおおよそ以下のとおりです。

シンガポール(2位)

  • スコア区分: 「非常に高い」
  • 英語が公用語のひとつであり、ビジネスの主要言語として定着している

フィリピン(22位)

  • スコア区分: 「高い」
  • 英語を公用語のひとつとして学校教育に組み込んでいる

マレーシア(25位)

  • スコア区分: 「高い」
  • 植民地時代の英語教育の蓄積があり、ビジネス英語の浸透度が高い

インド(43位)

  • スコア区分: 「中程度」
  • 高等教育での英語使用が多いが、国内格差も大きい

ベトナム(58位)

  • スコア区分: 「中程度」
  • 都市部の若い世代を中心に英語力が伸びている

インドネシア(81位)

  • スコア区分: 「低い」
  • 島嶼部の地域格差が大きく、都市部と農村部の差が顕著

日本(87位)

  • スコア区分: 「低い」
  • 読み書きは得意だが会話が苦手な傾向がある

タイ(100位)

  • スコア区分: 「非常に低い」
  • 英語教育の整備が遅れており、観光業以外での英語活用は限定的

この比較から、ベトナムはアジアの中では英語力が中程度に位置しており、日本・タイ・インドネシアよりも高い水準にあることがわかります。採用担当者として「日本人スタッフより英語でのやりとりがしやすい場面もある」という視点を持っておくと、コミュニケーション設計の幅が広がります。

都市部と農村部:英語力の地域格差

ハノイ、ホーチミン市、ダナンなどの主要都市では、英語教育へのアクセスが充実しています。外資系企業・IT業界・観光業に従事する人材はビジネスレベルの英語を使いこなすケースも多く存在します。

一方、農村部や地方都市では英語教育の機会が限られており、英語力が低いケースも少なくありません。日本で働くベトナム人材の中には農村部出身者が相当数含まれており、英語よりも日本語学習を優先してきた人材が多いのが実情です。採用時に英語力を期待する場合は、候補者の出身地や就労経験を踏まえた確認が欠かせません。

ベトナムにおける英語教育の歴史と制度改革

現在のベトナム人材の英語力の背景を理解するには、ベトナムの英語教育の歴史的変遷と、近年の政策的な変革を把握することが重要です。

フランス語からロシア語、そして英語へ

19世紀後半から約100年にわたるフランス植民地時代、ベトナムではフランス語が行政・教育の主要言語でした。1975年の南北統一後はソ連との連携を背景にロシア語が広まります。転換点となったのが1986年の「ドイモイ(刷新)政策」です。市場経済への移行と対外開放に伴い外資企業の進出が活発化し、英語の実用的重要性が急速に高まりました。1990年代以降、英語は事実上の第一外国語として教育現場に定着していきます。

国家外国語プロジェクトと小学校英語の義務化

2008年、ベトナム政府は「国家外国語プロジェクト2020(Đề án Ngoại ngữ Quốc gia 2020)」を策定しました。2020年までに国民の英語能力を日常・業務レベルへ引き上げることを目標に、学校教育全体での英語強化を推進したプロジェクトです。目標達成には課題も残りましたが、英語教育への国家投資と社会的意識の向上に大きく貢献しています。

現在、ベトナムの公立小学校では小学3年生(9歳)から英語が必修科目となっています。中学・高校でも英語は主要5科目のひとつとして位置づけられています。大学では、卒業要件としてTOEIC500点以上の取得や英語での論文執筆を課す機関が増えており、英語力の証明がキャリアに直結する傾向が強まっています。

私立英語スクールの普及と若い世代の意識変化

ハノイ・ホーチミン市を中心に、民間の英語スクールや英会話センターが数多く展開しています。IELTSやTOEICの取得を目指す若者は多く、英語力はキャリアアップへの直接的な投資として広く認識されています。

1990年代以降に生まれたミレニアル世代・Z世代のベトナム人は、英語を日常スキルのひとつとして身につけている層が増えています。来日するベトナム人材の中心年齢層が20代〜30代前半であることを踏まえると、若い世代ほど英語能力が相対的に高い傾向がある点は採用時の参考情報になります。

TOEICとIELTSへの関心:ベトナムの英語資格取得事情

ベトナムでは、英語の国際資格取得に対する関心が非常に高く、特にTOEICはキャリア形成において重要な指標となっています。ハノイ国家大学やホーチミン市国家大学などの主要大学では、卒業要件にTOEIC450〜600点前後のスコアを設けているところも多く、学生たちは在学中から積極的に受験に臨んでいます。

IELTSについては、海外留学・就職を目指す層を中心に受験者数が伸びており、スコア6.0以上を取得する学生も珍しくありません。これらの資格はベトナム国内の就職市場でも評価されており、外資系企業への就職や給与交渉の際に有利に働くことが多いため、意欲的な人材ほど英語資格の取得に積極的です。

ただし、資格スコアと実際の会話能力は必ずしも一致しないことがあります。読み書き中心の試験勉強で高スコアを取得していても、実務での口頭コミュニケーションに不安を感じる人材もいます。採用面接では実際に英語での会話を試みることで、スコアでは見えない会話力を確認できます。

在日ベトナム人材の言語プロフィール:英語力と日本語力

日本で働くベトナム人材の多くは、来日前に日本語学校でN4〜N3レベルの日本語を習得しています。特定技能1号の在留資格には、業種に対応した技能試験の合格に加え、日本語能力試験(JLPT)N4以上または国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)への合格が義務付けられています。そのため、在日ベトナム人材の多くは英語よりも日本語習得を最優先としてきた経緯があります。

厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況まとめ」(2023年10月末時点)によると、日本で働くベトナム人労働者数は約52万人で、国籍別では最多の外国人労働者グループです。この数字は、ベトナムが日本の外国人材受入れにとって最重要の送出し国であることを示しています。

在留資格の種類や手続きについては、 在留資格の種類一覧 で詳しく解説しています。

在留資格・職種によって異なる言語スキルの傾向

技術・人文知識・国際業務など高度人材系の在留資格で就労するITエンジニアや事務系人材は、英語と日本語の両方を使いこなせるケースが相対的に多い傾向があります。外資系企業での就労経験を持つ人材や、観光業・貿易関連の経験者は英語能力が高い場合があります。

一方、製造業・建設業・介護・農業などの現場職では、日本語力と実技スキルが採用の主要要件となっており、英語力は必須要件でない場合がほとんどです。採用する職種・業種に応じて、求める言語スキルの優先順位を事前に整理しておくことが、採用ミスマッチの防止につながります。

外国人材を採用する具体的な手順については、 外国人採用の流れ も参照してください。

日本の職場でベトナム人材と働く:言語コミュニケーションの工夫

日本語学習中のベトナム人材が多い現場でも、工夫次第で円滑なコミュニケーション環境は整備できます。日本企業の現場で実践されている言語対応の方法を紹介します。

多言語マニュアルの整備

作業手順書・就業規則・安全管理マニュアルを日本語・ベトナム語・英語の3言語で整備することで、指示伝達の精度が大幅に向上します。特に安全管理に関わる手順書は、理解不足が労働災害につながるリスクがあるため、ベトナム語での明示が強く推奨されます。

翻訳コストが課題になる場合、DeepLやGoogle翻訳などのAI翻訳ツールを下訳として活用し、母国語対応スタッフや人材紹介会社が内容を確認する方法でコストを抑えながら品質を担保できます。

バイリンガルスタッフの活用

日本語・ベトナム語を話せるバイリンガル人材を職場リーダーとして配置することで、指示出しやトラブル対応が格段にスムーズになります。ベトナム人スタッフ同士が互いをフォローし合う環境は、職場定着率の向上にも寄与します。

外国人材向け研修プログラム を活用すると、入社直後の不安解消から業務習得まで、母国語対応スタッフによる一貫したサポートが受けられます。

テクノロジーを活用したコミュニケーション支援

近年では、スマートフォンの翻訳アプリを現場コミュニケーションに取り入れる企業が増えています。Google翻訳やDeepLのスマホアプリは、カメラをかざすだけで掲示物やマニュアルを即座に翻訳できる機能があり、現場での即席コミュニケーションに役立ちます。

社内連絡ツール(ChatworkやSlackなど)のメッセージに自動翻訳機能を組み合わせると、文字ベースのやりとりも効率化できます。日本人スタッフとベトナム人スタッフが同じチャンネルで情報を共有しながら、それぞれの言語で読める環境を作ることで、情報の抜け漏れが減りやすくなります。

ただし、テクノロジーはあくまで補助手段です。重要な業務指示や安全確認は、翻訳ツールに頼るだけでなく、対面でのジェスチャーや実演を組み合わせた確認が欠かせません。

英語をブリッジ言語として使う際の注意点

英語を補助的なブリッジ言語として活用する場合、使用する英語は極力シンプルにすることが基本です。"Wear your helmet before entering the site." や "Check the item count before packing." のような短く明確な指示文は、英語力が中程度の人材にも理解しやすくなります。

ただし、すべてのベトナム人スタッフが英語に対応できると想定するのはリスクがあります。英語力には個人差が大きいため、採用段階での確認なしに英語でのコミュニケーションを前提とした配置計画を立てることは避けてください。

ベトナム人材との良好な職場関係を築くには、文化的背景の理解も欠かせません。 ベトナムの宗教事情やタブー・生活習慣 ベトナム人の名前の特徴と覚え方 についても事前に把握しておくと、最初の関係構築がスムーズになります。

入社後の言語スキル支援:定着率向上につながる取り組み

採用後の言語サポートは、ベトナム人材の定着率に直結する重要な要素です。入社直後は日本語に不安を感じる人材も多く、適切なフォローがなければ早期離職につながるケースがあります。採用で終わりにせず、入社後のサポート設計まで考えることが、長期就労を実現するうえで欠かせません。

日本語学習の継続支援

企業内で日本語学習を支援する取り組みとして、オンライン日本語講座の費用補助や、就業後の自主学習時間の確保などが効果的です。日本語レベルが向上すると、業務理解が深まり、日本人スタッフとのコミュニケーションも活発になります。結果として、昇格・昇給の機会が広がり、スタッフ本人のモチベーション向上にもつながります。

英語力についても同様で、英語が求められる職種では、会社が英語研修費用を一部負担することでスキルアップを後押しできます。「育てる採用」の姿勢を示すことが、優秀なベトナム人材の獲得と定着に有効です。

相談できる環境づくり

言語の壁があると、困ったことがあっても言い出せず、問題が大きくなってから発覚するケースがあります。同じベトナム語を話すリーダーや相談窓口を設けることで、「困ったことがあればすぐ相談できる」という安心感を提供できます。

入社後のフォローアップ面談を定期的に実施し、業務上の疑問点や生活面での困り事を早期にキャッチする仕組みを作ることが、長期就労の定着に効果的です。言語の問題を「個人の努力に任せる」のではなく、組織としてサポートする体制を整えることが、離職防止の鍵となります。

採用面接で確認すべき言語スキルのチェックポイント

ベトナム人材の言語スキルを採用段階でしっかり把握することで、職場配置のミスマッチを防ぎ、入社後の定着率向上につながります。以下の観点で確認することをおすすめします。

日本語能力の確認

特定技能1号ではJLPT N4以上が最低要件ですが、業務内容によってはより高いレベルの候補者を求めることが現場円滑化につながります。

JLPT N4レベル

  • 基礎的な挨拶・簡単な指示が理解できる
  • 製造・農業・漁業などの現場作業職での入職ラインとして機能する
  • 入社後の日本語研修で引き続きサポートが必要

JLPT N3レベル

  • 職場での基本的なやりとりが可能
  • 安全確認・報告・連絡が日本語でおおむねできる
  • 介護・飲食・宿泊などのサービス業に適している

JLPT N2レベル以上

  • 報告・連絡・相談が日本語でスムーズにできる
  • リーダー職・現場管理補助・事務職に適している
  • ベトナム人材の中では希少価値が高い

面接ではスコア確認に加えて、実際に日本語でのロールプレイングや質疑応答を行い、試験成績だけでなく実用的な運用能力を確かめることが重要です。

英語能力の確認

英語力を業務要件とする職種の場合、以下を採用時に確認します。

  • TOEICやIELTSなど公認資格のスコア(TOEIC500点以上が実用的なラインの目安)
  • 英語を使った業務経験(外資系企業勤務、英語取引先との対応など)
  • 面接での英語による自己紹介・志望動機・職務経験の説明
  • 業種に関連する専門用語を英語で理解できるか

IT・事務・観光・貿易など英語が業務に直結する職種では、英語と日本語の両方が一定水準以上の人材を採用することで、職場内のコミュニケーション効率が大きく改善されます。

職種・業種別の言語スキル基準の目安

業種ごとに求める言語スキルの水準を整理しておくと、採用基準の一貫性が保たれます。

製造業・農業・漁業・建設業(現場作業)

  • 日本語: JLPT N4以上を基本要件とする
  • 英語: 必須要件としないのが一般的。ベトナム語のマニュアル整備で補完する

介護・医療補助

  • 日本語: N3以上が望ましい(利用者・患者とのやりとりが発生するため)
  • 英語: 業務上の必要性は低い職種が多い

IT・エンジニア・事務・通訳翻訳

  • 日本語: N2以上が望ましい
  • 英語: TOEIC550点程度以上が目安。英語と日本語の両方が使える人材は採用価値が高い

まとめ

ベトナム人の英語力は、EF EPI 2023ランキングで世界111カ国中58位・「中程度」に位置づけられています。ただしこれは国全体の平均値で、都市部と農村部、年齢・学歴・職種経験によって実態には大きなばらつきがあります。

日本で就労するベトナム人材の多くは日本語習得を最優先としており、英語力には個人差が大きい点を前提に採用計画を立てることが重要です。英語をブリッジ言語として職場活用する場合は、採用前の言語スキル確認と、入社後の多言語マニュアル整備が成功の鍵となります。

  • EF EPI 2023でベトナムは111カ国中58位・「中程度」と評価されており、日本・タイ・インドネシアより上位に位置する
  • 大都市部の若い世代は英語力が高い傾向があるが、農村部出身者は低い場合もある
  • TOEICやIELTSへの関心が高く、大学卒業要件に英語スコアを課す機関が増えている
  • 在日ベトナム人材の多くは日本語を優先的に習得しており、英語力には個人差が大きい
  • 職種に応じて日本語・英語の要求水準を明確にすることが採用精度を高める
  • 多言語マニュアルの整備とバイリンガルリーダーの配置が職場定着に有効
  • 入社後の日本語・英語研修のサポートが長期定着につながる

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この記事を書いた人

グエン・ハイ

グエン・ハイ

ベトナム・ハノイ出身。来日10年。日本語能力試験N1取得。ユアブライトでベトナム文化の橋渡し・人材採用支援を担当しています。ベトナム人材を採用する企業に向けて、生活習慣・宗教・コミュニケーションの背景を解説します。

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