特定技能や技能実習の制度を通じて、ミャンマー人材の採用を検討する企業が増えています。ミャンマーは親日国として知られ、日本語学習への意欲が高い人材が多い一方で、上座部仏教を基盤とする独自の文化は他の送出国とは大きく異なります。採用後に「こんなはずではなかった」とならないためには、文化的背景への理解が欠かせません。そこで、ミャンマー人を採用する前に知っておくべき文化・宗教・コミュニケーションの特徴について解説します。

ミャンマー人採用①:今注目される理由

ミャンマー人材が採用候補として注目を集める背景には、複数の要因があります。単に「人手が足りないから」という理由だけではなく、ミャンマー人材ならではの強みが評価されていることを理解しておくと、採用方針も定まりやすいでしょう。

2021年以降、日本への就労希望者が急増

2021年2月のクーデター以降、ミャンマー国内の政治・経済情勢は大きく不安定化しました。安定した就労環境を求めて日本を目指すミャンマー人が増えている背景には、日本の技術力や生活環境に対する高い評価があるでしょう。来日を希望する人材の層は年々厚くなっている傾向があります。

一方、日本側でも介護や製造業を中心に深刻な人手不足が続いており、ミャンマーを新たな送出国として重視する動きが広がっています。つまり、送り出す側と受け入れる側の双方にとって追い風が吹いている状況と考えていいでしょう。

日本語学習への意欲は他国と比べても高い

ミャンマー人材を採用した企業から、「日本語の上達が早い」「学習に対する姿勢が真面目」という声を聞くことも珍しくありません。ミャンマーでは来日前にN4やN3の日本語能力試験に合格してから渡航する人材も少なくないでしょう。

ミャンマー語(ビルマ語)は日本語と同じSOV(主語・目的語・動詞)の語順を持っており、英語圏の人材と比較すると日本語の文法になじみやすいと言われています。加えて、教師の教えを忠実に守る教育文化があるため、語学学習にも粘り強く取り組む傾向があります。

特定技能の送出国として制度整備が進む

ミャンマー政府と日本政府の間では、技能実習制度および特定技能制度に関する協力覚書が交わされており、送出機関の認定や手続きの透明化も進んでいるでしょう。企業が安心して採用に踏み切れる環境は着実に整いつつあります。

とはいえ、送出機関の質にはばらつきがあることも事実です。信頼できる監理団体や登録支援機関と連携し、実績を確認したうえで採用活動を進めることが大切です。在留資格の申請手続きについて詳しく知りたい方は、「外国人の在留資格申請を代理で行うために必要なこと」の記事も参考にしてみてください。

ミャンマー人採用②:理解すべき文化と宗教

ミャンマー人材と良好な関係を築くうえで、文化と宗教への理解は避けて通れないでしょう。国民の約9割が信仰する上座部仏教は日常生活に深く根づいており、職場での行動にも影響を及ぼしています。

上座部仏教が日常生活に根づいている

ミャンマーの上座部仏教は、日本の仏教とは性質が大きく異なります。日本では冠婚葬祭のときに仏教を意識する程度の人が多いかもしれません。しかしながら、ミャンマーでは日常的に寺院を訪れ、僧侶に食事を捧げる「ダーナ」(布施)が生活の一部となっています。

「功徳を積む」という考え方がミャンマー人の行動原理の根幹にあたるからです。善い行いが来世に良い影響を与えるという信念を持つ人が多く、困っている同僚を自発的に助けたり、職場の清掃を率先して行ったりする姿が見られることも珍しくありません。こうした価値観を理解しておくと、ミャンマー人材の誠実さをより深く受け止められるでしょう。

「頭」と「左手」のタブーは職場でも厳守

ミャンマーの文化では、頭は身体のなかで最も神聖な部位とされています。親しみを込めたつもりでも、相手の頭を触ることは大きな失礼にあたるため、絶対に避けることが大切です。

また、左手は不浄とみなされる文化があり、書類や物を渡す際には右手か両手を使うことをおすすめします。食事の場面でも左手だけで食べ物を扱うことはマナー違反と考えられています。こうしたタブーは宗教的な教えに根ざしたものであり、「古い慣習」として軽視しないほうがいいでしょう。

曜日占い・タナカ・ロンジーという文化

ミャンマーには、生まれた曜日によって性格や運勢が決まるとされる「八曜日占い」の文化があります。この信仰は名前の付け方にまで影響を与えるほど生活に浸透しているという点です。

また、天然の化粧品「タナカ」(thanaka)や巻きスカート「ロンジー」(longyi)は、民族的アイデンティティの象徴と言えるでしょう。来日後もこれらを使い続ける人は少なくありません。「変わった習慣」と捉えるのではなく、文化的背景として尊重する姿勢が信頼関係の構築につながります。

ミャンマー人採用③:性格・コミュニケーションの特徴

ミャンマー人と一緒に働くなかで、コミュニケーションのとり方に戸惑いを覚える日本人社員は少なくないかもしれません。しかしながら、その戸惑いの多くは文化的背景を知ることで解消できるものです。

「怒らない文化」の裏にある感情表現のルール

ミャンマーの社会では、怒りを表に出すことは非常に恥ずかしい行為とされています。上座部仏教の教えでは、怒り(パーリ語でドーサ)は「三毒」のひとつであり、克服すべき感情と位置づけられているからです。そのため、不満を感じていても直接的に表現することを避ける傾向があります。

一方、感情を表に出さないからといって、不満を抱えていないわけではありません。問題が蓄積すると突然退職を申し出るケースもあるため、定期的な面談で困りごとを丁寧に聞き取ることが大切です。「何か問題はありませんか」と直接聞いても「大丈夫です」と答えることが多いため、「最近の仕事で難しいと感じることはありますか」のように具体的に質問するほうがいいでしょう。

控えめな態度は「敬意の表現」である

ミャンマーでは、目上の人に対して控えめな態度をとることが礼儀とされています。会議で積極的に発言しない、上司の指示にすぐ「はい」と答えるといった行動は、「受け身すぎる」と映るかもしれません。しかしながら、これはミャンマー文化における敬意の表し方であり、本人のやる気とは別の問題です。

ミャンマー語には敬語体系があり、年長者には「チャノー」(ကျွန်တော် 男性)や「チャマ」(ကျွန်မ 女性)という謙譲の一人称を使い分けます。こうした言語構造からも、上下関係を重んじる文化が根づいていることが分かるでしょう。もちろん、日本の職場では自分の意見を述べることも求められるため、「遠慮せずに発言していい場面」を明示してあげると安心感につながります。

個人評価よりチーム評価のほうが響きやすい

ミャンマーの社会は、家族やコミュニティの絆を大切にする文化を持っています。個人の成果よりも集団の調和を重視する傾向があり、日本の「和を以て貴しとなす」という考え方と共通する部分でしょう。

そのため、人事評価の場面では、チームへの貢献や協調性を評価する仕組みを取り入れると効果的です。「あなたのおかげでチーム全体がうまくいった」という伝え方のほうが、モチベーションにつながりやすいと言われています。ただし、個々の努力を見過ごしてよいということではないため、チーム評価と個人への感謝をバランスよく伝えることをおすすめします。

ミャンマー人採用④:定着率を上げる「仏教カレンダー配慮」という発想

ミャンマー人材の定着率を高めるうえで、見落とされがちなのが宗教行事への配慮でしょう。制度や給与の条件だけでなく、「自分の信仰を尊重してもらえている」という実感が長期的な就労意欲に大きく影響することも珍しくありません。

仏教行事への配慮は最大のリテンション施策

ミャンマーの仏教暦には、日本にはなじみの薄い重要な行事がいくつもあります。たとえば、4月中旬の水かけ祭り「ティンジャン」(သင်္ကြန်)はミャンマー正月にあたり、一年で最も大切な行事のひとつでしょう。雨安居(ウァーゾー)の期間に行われる僧侶への布施も、信仰心の深い人には欠かせない宗教行為です。

こうした行事の時期に有給休暇の取得を促したり、寺院への訪問を配慮したりすることは、大きな安心材料になります。満月の日には精進料理のような食事を好む人もいるため、社員食堂で肉を使わないメニューを用意してあげると喜ばれるかもしれません。なお、宗教上の食事配慮についてはインドネシア人社員のハラール対応やネパール人社員の食事制限に関する記事も参考になるでしょう。

「宗教に理解ある会社」の評判は採用に直結する

ミャンマー人コミュニティは日本国内でも緊密なネットワークを持っており、「あの会社は仏教行事に理解がある」という評判は口コミで広まりやすいと言われています。

一方、配慮が不十分な企業へのネガティブな情報もまた共有されやすい傾向があります。つまり、宗教的配慮は既存社員の定着率だけでなく、将来の採用ブランディングにも直結する施策と考えていいでしょう。まずはミャンマーの主要な仏教行事の時期を把握し、社内カレンダーに反映するところから始めてみることをおすすめします。

まとめ

ミャンマー人材は、上座部仏教に根ざした穏やかで誠実な性格と高い日本語学習意欲を持つ、日本企業にとって心強いパートナーとなり得る存在です。基本的なタブーへの配慮から仏教カレンダーに合わせた休暇制度の検討まで、文化的背景の理解が定着率を左右するでしょう。

文化や宗教の違いを壁と捉えるのではなく、相互理解のきっかけとして活かすことで、職場全体がより豊かなものになります。ミャンマー人材の採用を検討している企業は、まず本記事の文化的なポイントを社内で共有するところから始めてみることをおすすめします。

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