ベトナム人社員に「日本で一番驚いたことは何ですか」と尋ねると、仕事の内容よりも"日本人の習慣"に関する答えが返ってくることが多いと言われています。こうした文化的ギャップを放置してしまうと、双方のストレスが蓄積し、早期離職の原因にもなりかねません。そこで、ベトナム人が戸惑いやすい日本の職場習慣を場面別に整理し、トラブルを未然に防ぐ対処法まで解説します。

日本の不思議な習慣①:ベトナム人が戸惑う「日本語コミュニケーション」の壁

日本語には、言葉の表面的な意味と本当に伝えたい意図が異なる表現が数多く存在します。日本人同士であれば自然に読み取れるニュアンスも、ベトナム人にとっては大きな混乱のもとになることがあります。

「お疲れ様です」は挨拶であって体調の話ではない

日本の職場では、朝でも昼でも夕方でも「お疲れ様です」という言葉が飛び交います。しかしながら、ベトナム語にはこの表現に直接対応する言葉がありません。そのため、「まだ疲れていないのに、なぜ疲れたと言われるのか」と不思議に感じるベトナム人も少なくありません。

この言葉は体調を尋ねているのではなく、相手の存在を認め、労をねぎらう日本独自の挨拶です。ベトナム語では「Vat va roi(ヴァッヴァーロイ:お疲れ様、頑張ったね)」という表現がありますが、これは本当に大変な仕事をした相手に使うねぎらいの言葉であり、日常的な挨拶としては使わないという点が大きな違いでしょう。研修時に「日本語の挨拶リスト」として意味と使う場面をセットで教えてあげると、スムーズに職場に馴染めるようになります。

「検討します」「難しいですね」は断りの合図である

日本のビジネスシーンでは、相手の提案を断る際に「検討します」「ちょっと難しいですね」といった婉曲的な表現を使う傾向があります。しかしながら、ベトナムのコミュニケーションスタイルは日本よりも直接的であり、YesかNoかをはっきり伝えるのが一般的です。そのため、「検討します」と言われたベトナム人社員が「前向きに考えてくれている」と受け取り、いつまでも返事を待ち続けるという事態が起こることも珍しくありません。

対処法としては、ベトナム人社員に対しては可能な限り明確な言葉で伝えることが大切です。断る場合は「申し訳ありませんが、今回は対応できません」と理由を添えて伝えるほうがいいでしょう。加えて、日本語の婉曲表現の一覧を作成し、「この言葉は"No"の意味で使われることが多い」と事前に共有しておくことをおすすめします。

「空気を読む」は超能力ではなく文化的スキルである

「空気を読む」という概念は、日本の職場文化を象徴する表現の一つでしょう。会議で誰も反対意見を言わなければ「賛成」と解釈される場面や、上司の表情から指示の意図を汲み取ることが求められる場面は、日本の職場では日常的に発生します。

ベトナムの職場でも上下関係は重視されますが、意見があれば比較的率直に伝える傾向があります。つまり、「言わなくても分かるだろう」という前提が通じにくいのがベトナム人社員との間で生じるギャップの本質という点です。とはいえ、これは能力の問題ではなく、文化的な前提条件の違いにすぎません。指示を出す際は口頭だけで済ませず、具体的な期待値を文書やチャットで明文化することをおすすめします。

日本の不思議な習慣②:ベトナム人が驚く「職場の暗黙ルール」

日本の職場には、就業規則には書かれていないにもかかわらず、全員が守ることを暗黙のうちに求められるルールが存在します。こうした「暗黙の了解」は、ベトナム人社員にとって最も理解しづらいポイントの一つかもしれません。

「報連相」はベトナムの職場に存在しない概念である

「報告・連絡・相談」を略した「報連相(ほうれんそう)」は、日本の職場で最も基本的なコミュニケーションルールとされています。しかしながら、ベトナムの職場には報連相に相当する統一的な概念がありません。ベトナムでは、上司から聞かれたときに答えるのが基本であり、「順調なら報告は不要」「自分で解決できることは自分でやる」と考える人も多いと言われています。

そのため、ベトナム人社員が報告をしないのは「怠けている」のではなく、「報告する必要があると認識していない」可能性が高いと考えていいでしょう。対処法としては、「何を」「いつ」「誰に」報告するのかを具体的に指示する必要があります。たとえば、「作業が終わったら必ずリーダーに完了報告をしてください」「困ったことがあれば、その日のうちに相談してください」のように、行動レベルで伝えることが大切です。報連相を仕組みとして定着させる具体的な方法については、「現場で即使える!ベトナム人社員への接し方|職場のマナーとコミュニケーション術」の記事でも詳しく紹介しています。

有給休暇は「権利」なのに使うと空気が悪くなる

日本では有給休暇は労働者の法的な権利として保障されています。一方で、実際には「周囲に迷惑がかかるから」「上司が取っていないのに自分だけ取りにくい」という心理が働き、取得をためらう人が依然として多いという傾向があります。

ベトナムでは、有給休暇は「あるなら使う」という考え方が主流であり、企業全体で取得率がほぼ100%に達するケースも珍しくありません。そのため、ベトナム人社員が入社早々に有給取得を申し出たとしても、「常識がない」と捉えるのではなく、制度に対する文化的な認識の違いとして理解したほうがいいでしょう。有給取得のルールを明文化し、「申請は何日前までに」「繁忙期は調整が必要」といった具体的な運用ルールを入社時に説明しておくと安心です。

残業に対する認識は日本とベトナムで大きく異なる

日本の一部の職場では、定時を過ぎても仕事を続けることが「責任感がある」「頑張っている」と肯定的に評価される空気がいまだに残っています。もちろん、近年は働き方改革の推進により改善が進んでいますが、残業を美徳とする風潮が完全になくなったわけではないという傾向があります。

ベトナムでは、定時に仕事を終えて帰宅するのが一般的であり、就業後は家族との夕食やキャリアアップのための勉強に時間を充てる人も少なくありません。そのため、ベトナム人社員が定時で帰ろうとするのは、やる気がないのではなく、ベトナムでは当たり前の行動だと理解する必要があります。残業が必要な場合は、その理由と期待される作業内容を事前に具体的に説明してあげると、納得して対応してくれるでしょう。

日本の不思議な習慣③:ベトナム人が不思議に思う「日本のビジネスマナー」

日本のビジネスマナーには、他国から見ると非常に儀式的に映るものがあります。ベトナム人社員がこうしたマナーに驚くのは自然なことであり、文化的な背景を知ることで相互理解が深まるでしょう。

名刺交換は日本の「儀式」である

日本のビジネスシーンでは、初対面の際に名刺を交換する行為が非常に重要視されています。名刺の渡し方、受け取り方、テーブルへの並べ方に至るまで細かな作法が存在し、これを知らないと「マナーがなっていない」と評価されかねません。

一方、ベトナムでも名刺交換の際に両手で丁寧に渡す習慣はありますが、日本ほど細かい所作が決まっているわけではありません。ベトナムでは名刺に出身地(省名)を記載する人が多く、そこから会話が広がるという独自の文化も見られます。そのため、日本式の名刺交換の作法は、ベトナム人社員にとって「なぜそこまで細かいルールがあるのか」と驚く要素の一つになることも珍しくありません。名刺交換の研修を行う際は、単に手順を教えるだけでなく、「名刺は相手の分身であり、大切に扱うことで敬意を示す」という日本の考え方も伝えると理解が深まるでしょう。

飲み会の作法は日本とベトナムで根本的に異なる

日本の職場には、仕事の後に上司や同僚と飲みに行く「飲み会」の文化があり、目上の人のグラスが空いていたらお酌をするという暗黙のルールが存在します。一方、ベトナムの飲み会では基本的に手酌が一般的であり、日本式のお酌の習慣はありません。ベトナムでは「Mot hai ba yo(モッハイバーヨー=1、2、3、乾杯)」の掛け声で全員が一斉にグラスを合わせるスタイルが主流であり、日本のように個別にお酒を注ぎ合う文化とは大きく異なると考えていいでしょう。

そのため、日本式の飲み会で「なぜ自分が上司にお酒を注がなければならないのか」とベトナム人社員が戸惑うのは自然なことです。ただし、飲み会の強制参加や飲酒の強要は時代に合わないという認識が日本国内でも広がっています。ベトナム人社員に飲み会への参加を促す際は、あくまで任意であることを明確にし、お酒が飲めない場合はソフトドリンクでも問題ないと伝えておくと安心です。ベトナムの飲み会文化についてさらに詳しく知りたい方は、「ベトナム人との飲み会で失敗しない!乾杯文化から職場の宴会マナーまで徹底解説」の記事も参考にしてみてください。

日本の不思議な習慣④:文化の違いを「学びの機会」に変える方法

ここまで紹介してきたベトナム人が戸惑う日本の習慣は、裏を返せば相互理解を深める絶好の教材になります。文化の違いを「問題」として処理するのではなく、「学びの機会」として活用する企業は、外国人材の定着率が高い傾向があります。

「違い」を対等に共有する場をつくることが定着率を左右する

配属後の研修で「日本に来て驚いたこと」をベトナム人社員に発表してもらうワークショップは、効果的なアイスブレイクになるでしょう。このとき、日本人社員も「ベトナムの習慣で驚いたこと」を同時に発表する双方向の形式にすることが大切です。

加えて、「日本ではこうする」「ベトナムではこうする」を対比形式でまとめた「文化ギャップ表」を配属先に掲示しておくのも有効な方法です。受け入れ側の日本人社員が事前に文化の違いを把握できるため、「なぜこの人はこうするのだろう」という疑問がストレスに変わる前に理解へと転換しやすくなるでしょう。ベトナム人の性格や国民性の全体像を事前に把握しておきたい場合は、「採用担当者必見!ベトナム人の特徴とは?性格・国民性を地域別にわかりやすく解説」の記事もあわせてご覧ください。

まとめ

ベトナム人が驚く日本の習慣の多くは、日本人にとっては「当たり前すぎて説明する必要がない」と感じるものばかりです。しかしながら、この「当たり前」の違いこそが職場での誤解や摩擦の原因になります。そのため、ベトナム人社員を受け入れる際は、日本特有の暗黙のルールやコミュニケーションの特徴を意識的に「言語化」し、丁寧に伝えていくことが大切です。

文化の違いは、どちらが正しくてどちらが間違っているという話ではありません。お互いの「当たり前」を知り、歩み寄る努力を続けることで、ベトナム人社員も日本人社員もともに成長できる職場が生まれるでしょう。日々の小さな対話の積み重ねが、信頼関係の土台となり、組織全体の力を高めることにつながります。

この記事を書いた人

Editorial