外国人受入れ・教育
外国人社員が「意味がわからない」と絶句する日本の職場ルール10選
「報連相って何ですか」「なぜ毎朝体操をするのですか」──日本企業で働き始めた外国人社員の多くが、入社直後にこうした戸惑いを口にします。しかも、こうしたルールの大半は明文化されておらず、"暗黙の了解"として存在しているのが厄介な点でしょう。ベトナム、ネパール、インドネシア、フィリピンなど、出身国が異なれば驚くポイントも少しずつ違ってくるものです。そこで、多国籍の外国人社員が実際に「理解できない」と感じた日本の職場ルールを10個厳選し、戸惑う理由・文化的背景・対処法の3点セットで解説します。
日本の職場ルールで外国人社員が驚くこと①:言葉の裏に意味がありすぎるコミュニケーション
日本の職場では、言葉そのものよりも「言外の意味」が重視される場面が多くあります。ベトナムやフィリピン、ネパールなど、比較的ストレートなコミュニケーションが好まれる文化圏の出身者にとって、この間接的な伝達方法は大きなハードルとなることも珍しくありません。ここでは、特に戸惑いの声が多い4つの場面を取り上げます。
「報連相」は日本独自の発明と心得る
「報告・連絡・相談」を略した「報連相(ほうれんそう)」は、日本のビジネスパーソンであれば新入社員研修で必ず教わる概念です。しかしながら、この仕組みを持つ国はほとんどありません。ベトナムでは上司への報告は「問題が起きたとき」に行うのが一般的であり、ネパールやインドネシアでも「順調なら報告は不要」と考える人が多い傾向があります。
そのため、外国人社員が報連相をしないのは怠慢ではなく、文化的に「必要性を感じていない」だけという場合がほとんどです。「何のために報告するのか」「どのタイミングで、誰に、何を伝えるのか」を具体例つきで説明することをおすすめします。たとえば「作業が半分終わったら一度声をかけてください」のように、行動レベルまで落とし込むと伝わりやすいでしょう。
「お疲れ様です」は挨拶であって体調確認ではない
「お疲れ様です」という表現は、日本の職場で一日に何度も飛び交います。一方、英語にもベトナム語にもネパール語にも、これに該当する表現は存在しません。フィリピン出身の社員が「自分は疲れていないのに、なぜ疲れていると言われるのか」と困惑したという話はよく聞きます。
この表現は直訳すると意味が通じないため、「英語のHelloと同じ使い方をする日本語の挨拶です」と伝えておくと安心です。加えて、「おはようございます」が朝だけでなく、出勤時の挨拶として時間帯を問わず使われる職場があることも、あわせて伝えておくといいでしょう。
「検討します」と言われたら断られている可能性が高い
日本語の「検討します」は、文字通り「考えてみます」という意味で使われる場合もあれば、実質的に「お断りします」を意味する場合もあります。この曖昧さは日本人同士でも判断に迷うことがあるほどです。インドネシアやフィリピンでは、断るときにも比較的はっきりと理由を述べる傾向があるため、「検討します」のあとに何も返答がないと、外国人社員は「まだ検討中なのだろう」と待ち続けてしまうかもしれません。
とはいえ、日本の間接的な表現を一切やめることも現実的ではありません。そこで有効なのは、外国人社員に対しては結論を先に伝えるように社内で意識を共有することです。「検討しますが、実現は難しいと思います」のように一言添えるだけで、誤解は大幅に減るでしょう。
「空気を読む」を外国人に求めるのは無理がある
「空気を読む」という概念は、日本文化に深く根ざしたコミュニケーション様式です。しかしながら、これは長年日本社会で暮らすなかで自然と身につくものであり、来日して間もない外国人社員に求めること自体に無理があると考えたほうがいいでしょう。ベトナムにも「te nhi(テニー:気配り・繊細さ)」という概念はありますが、日本の「空気を読む」とは範囲も深さも異なります。
そのため、「言わなくてもわかるだろう」という前提を見直し、伝えるべきことは明確に言語化する習慣をつけることが大切です。これは外国人社員のためだけでなく、日本人社員にとっても風通しのよい職場づくりにつながるという点です。
日本の職場ルールで外国人社員が驚くこと②:休む=悪という働き方の常識
労働時間や休暇に対する考え方は、国によって大きく異なります。日本の「休まない美徳」は、多くの外国人社員にとって最も理解しがたい文化の一つかもしれません。
有給休暇は権利なのに行使しづらい空気がある
日本の労働基準法では、一定の条件を満たした労働者に有給休暇が付与されます。厚生労働省の「就労条件総合調査(令和5年)」によると、年次有給休暇の取得率は65.3%と過去最高を記録しましたが、裏を返せば3割以上が未消化のままという状況です。ベトナムやフィリピンでは、有給休暇は家族行事や帰省のために計画的に消化するのが当然とされており、「権利があるのに使わない」という感覚は理解しがたいものでしょう。
ネパール出身の社員が母国最大の祭事「ダサイン」のために長期休暇を申請したところ、職場の雰囲気が気まずくなったという事例も耳にします。ダサインはヒンドゥー教の祭りで、企業や学校も約10日間の休みに入るほど重要な行事です。外国人社員が安心して休暇を取得できるようにするには、シフト調整のルールを明文化し、「申請すれば取得できる」という実態をつくることが必要です。ネパール人社員の食文化や宗教的背景については「外国人社員雇用に役立つ、ネパールの食文化と食事制限ガイド」でも詳しく紹介しています。
定時退社が評価されにくい風潮がある
「残業している人のほうが頑張っている」という認識は、かつてほど強くはないものの、完全に消えたわけではありません。インドネシアやフィリピンでは、定時に仕事を終えて家族との時間を大切にすることが一般的です。また、ベトナムでも残業は「業務量の多さ」を示すものであり、「やる気」の指標とは考えられていません。
そのため、「何時間働いたか」ではなく「どのような成果を出したか」で評価する仕組みを整えることが大切です。成果ベースの評価制度は、外国人社員に限らず組織全体の生産性向上につながると考えていいでしょう。
飲み会は任意のはずなのに断りにくい
日本の「飲みニケーション」は、チームの結束を深める手段として長年重視されてきました。一方、ネパールやインドネシアにはムスリム(イスラム教徒)の社員もおり、宗教上の理由で飲酒しない人もいます。フィリピン出身の社員は比較的飲み会に馴染みやすいと言われていますが、それでも「毎週金曜日は暗黙の参加義務」のような空気には戸惑いを感じることがあります。
もちろん、職場の人間関係を深める機会そのものは大切です。ただし、飲み会に代わる交流の場として、ランチ会やスポーツイベントなど、アルコールを伴わない選択肢も用意しておくことをおすすめします。多様なバックグラウンドの社員が無理なく参加できる環境こそが、チームの結束を本当の意味で強めるからです。
日本の職場ルールで外国人社員が驚くこと③:独特の儀式と作法
日本の職場には、業務そのものとは直接関係のない「儀式」や「作法」が数多く存在します。これらは組織の一体感や秩序を保つための仕組みですが、その目的が説明されないまま「とにかくやって」と求められることで、外国人社員の困惑を招いていることも珍しくありません。
名刺交換は日本式ビジネスの入場券である
名刺交換の作法──両手で差し出す、相手より低い位置で渡す、受け取ったらすぐにしまわない──は、日本のビジネスマナーの象徴ともいえるものです。ベトナムやネパールにも名刺交換の習慣はありますが、日本ほど細かい所作が決まっているわけではありません。フィリピンやインドネシアでは片手で受け渡しすることも一般的です。
しかしながら、名刺交換の所作一つで第一印象が左右されるのが日本のビジネス文化の特徴です。外国人社員には「なぜそうするのか」を丁寧に説明したうえで、実際にロールプレイング形式で練習する機会を設けてあげると効果的でしょう。
朝礼とラジオ体操は一体感をつくるための装置である
製造業や建設業の現場では、始業前の朝礼やラジオ体操が日課となっていることがあります。ベトナムの工場でも朝礼に近い習慣はありますが、全員で体操を行う文化はほとんどの国に存在しません。「なぜ仕事の前に運動をするのですか」「これは強制ですか」という疑問を持つ外国人社員は多いと言われています。
朝礼やラジオ体操の目的は、安全確認・情報共有・チームの一体感醸成にあります。この目的を事前に説明し、「体を動かすことでケガの予防にもなる」という実務的なメリットもあわせて伝えることをおすすめします。目的が理解できれば、外国人社員も前向きに取り組めるようになるという傾向があります。
エレベーターの立ち位置にまで序列が反映される
日本では、エレベーターの「上座」「下座」、会議室の座席順、タクシーの乗車位置など、空間のあらゆる場面に上下関係が反映されます。こうした序列意識は、儒教文化の影響を受けたベトナムにもある程度存在しますが、エレベーターの立ち位置まで気にする文化はほとんどの国にありません。ネパールやインドネシア出身の社員にとっては、初めて耳にする概念かもしれません。
とはいえ、すべてを一度に覚えてもらう必要はありません。まずは「会議室では入口から遠い席が上座」といった基本だけを伝え、状況に応じて少しずつ教えていくほうがいいでしょう。完璧を求めるよりも、「気をつけようとしている姿勢」を評価する文化をつくることが大切です。
日本の職場ルールで外国人社員が驚くこと④:「意味がわからない」を放置する企業が失うもの
ここまで紹介してきた10のルールは、いずれも日本の職場では「常識」として扱われがちです。しかしながら、外国人社員から見れば「説明されていないルール」にすぎません。この認識のギャップを放置することは、企業にとって大きなリスクとなります。
説明コストを惜しむと離職コストで返ってくる
外国人社員が職場のルールを理解できずにストレスを抱え、結果として早期離職に至るケースは決して少なくありません。採用から入社までにかけたコスト、在留資格の手続き、住居の手配など、一人の外国人社員を迎え入れるまでには多大な労力がかかっています。そのため、入社後に「なぜこのルールがあるのか」を丁寧に説明する時間は、長い目で見れば十分に元が取れる投資と考えていいでしょう。
ベトナムやネパールでは、転職先の情報がSNSを通じて同胞コミュニティに瞬時に広がります。「あの会社は説明もなくルールを押しつける」という評判が立てば、今後の採用にも悪影響を及ぼしかねません。逆に「丁寧に教えてくれる会社だ」という口コミは、優秀な人材を呼び込む力になるという点も見逃せないでしょう。
「なぜ」に答えられる職場は日本人社員も働きやすい
外国人社員の「なぜこのルールがあるのですか」という問いは、実は職場を見直す貴重なきっかけでもあります。長年続けてきた慣習のなかには、現在の業務環境では意味を失っているものもあるかもしれません。「なぜ」に答えようとする過程で、不要なルールの廃止や業務の効率化が進むことも珍しくありません。
つまり、外国人社員の疑問に真摯に向き合うことは、組織全体の改善につながる取り組みでもあります。多国籍のチームを率いるうえで、「ルールの目的を言語化する」という作業は、日本人社員を含めた全員の働きやすさを底上げする効果を持っているのです。
まとめ
日本の職場ルールの多くは、長い歴史のなかで培われた合理性を持っています。しかしながら、その背景が説明されなければ、外国人社員にとってはただの「意味のわからない決まりごと」に映ってしまいます。大切なのは、ルールそのものを変えることではなく、「なぜそのルールがあるのか」を言葉にして伝える姿勢でしょう。
ベトナム、ネパール、インドネシア、フィリピンなど、さまざまな国から来た社員が日本の職場に加わる時代です。文化の違いを「面倒なもの」ではなく「組織を見つめ直すチャンス」として捉えることで、日本人社員も外国人社員も共に成長できる職場が生まれます。互いの「当たり前」を尊重し合いながら、より良い職場環境を築いていくことが、これからの多文化共生の第一歩となるでしょう。