ネパールの建設現場を見ていると、いろいろな不思議な光景が見えてきました。

ところ変われば常識もさまざま

今回は、ネパールの建設現場のエピソードをいくつか紹介していきましょう。

足元の安全

建設現場でサンダル履きで仕事をしている職人がフツウにいます。

足元はサンダル履きですから、当然、ヘルメット着用の義務もなく、指定の作業着もなく、個々に好きな服装で作業を行っています。

時には、その靴はどうなんだろう?と問いかけたくなるような黒い革靴を履いてくる職人もいます。

建設現場だからケガをしないような靴を履いた方がいいと指摘する人もいなければ、現場監督からの指導があるわけでもなく、サンダル履きの職人たちのいる建設現場は、何の違和感もなく成り立っています。

ネパールの建設現場で働く人の多くが経済的に貧しい層であるため、履物の消耗が激しい建設現場では、1足200ルピーほどのサンダルを履き捨て履き捨てしながら使用した方が安くて負担がないという単純な理由であったりもします。

また、ネパールの建設業界も3Kであることに変わりはなく、ここで働く職人たちは、せめて足元や身体を守る服装は慣れたスタイルで安心して自由に働きたいという気持ちがあるようです。

国の法令や会社の労働基準に守られていないネパールの建設業界で働く職人たちは、今この時以外に何の保証やサポートもなく、サンダル履きで自由に働いています

竹の足場で大丈夫

ネパールの建設現場の足場は竹と縄を組んで構えます。中国や東南アジアなどでも同様の仕様で足場が組まれていて、特に香港の高層ビルの竹足場は有名です。

足場の組み方は、簡単に言うとを使ってタテとヨコに井形で構えて、が交差した部分をで縛るだけです。

地上3、4階建ての建物でも同様に竹の足場を組んで外装工事用に使用されています。

高所作業であってもヘルメットやいのち綱などの安全対策はなく、竹の上を器用に移動しながら作業が進みます。

コストが安いという理由と組み立てや終わった後の解体は、鉄パイプに比べると竹の方が軽くて作業がしやすい面もあります。

ネパールでは、とび職のような専門的な技術職という分野は無く、塗装や左官、レンガ積み、鉄筋工事なで高所作業を行うすべての職人は、この竹の足場を使って作業を行います。

働き過ぎない労働時間

ネパールの冬の朝は厳しく白い朝もやの中、早朝6時から現場作業は始まります。

朝の10頃になると気温がグンと上がり、職人たちは各々朝飯を食べに食堂に行ったり弁当を現場で食べたりして1時間の休憩を取ります。現場近くに住んでいる職人には、奥さんが毎日弁当を届ける姿も良く見られます。

ネパールの冬は、朝晩の冷え込みは厳しいのですが、日中太陽が出れば気温20度ほどの過ごしやすい季節です。

10時の朝飯後に作業が再開し、2時にはおやつ休憩1時間、そして夕方6時まで仕事が続き、時には夜遅くまで残工事の作業が続くこともあります。

1日の労働時間は10時間+残業時間。1週間の中で休日は、現場の工程管理によって変わってくるため土日も続いて働くこともあります。

日本の労働基準法に比べると1日の労働時間かなり超過気味ですが、ネパール人の場合、同じ現場に短期で働く人が大半であることや、身体に負担が起きる前に休んだり、別の建設現場に移動する期間に休んだりするため働き過ぎにはならないようです。

また、工事請負会社の社員とフリーの職人では働き方も異なります。

就業規則やマニュアル化されていないネパールの建設現場では労働時間のルールも緩やかになっています。

女性も働く建設現場

建設現場での女性のおもな仕事は、資材運びと掃除です。レンガ、砂利、砂、石などは背負いカゴに詰めて運びます。結婚して子供のいる女性は、家事労働と子育て、そして厳しい建設現場での労働を掛け持ちしながら働いています。

中には幼い子供を現場に連れてきて遊ばせながら働いているお母さんもいます。

ネパールの習慣として家事労働は女性の役割である場合が多く、早朝から夕方までの肉体労働のあとに家に帰ってから食事に支度をするのは大変だという嘆きの会話も聞こえてきます。

また、報酬に関しても女性の賃金は男性よりも安く設定されており、女性が建設現場で働くことはリスクのある職業と言えます。

建設ブームが続いているネパールでは、男女ともに建設現場での仕事が見つかりやすい傾向もあり、夫婦そろって同じ現場で働いているネパール人もいます。

コンクリート打設工事

ネパールの住宅の建築構造は、レンガを使用した組積壁の鉄筋コンクリート構造、地上3~5階び建物が一般的です。レンガと鉄筋コンクリートを組み合わせた工法は、途上国で多く見られますが、耐震については諸々問題はあるようです。

コンクリート打設工事においては、小規模の工事では手動で行う場合も多く、ショベルで練り混ぜた生コンクリートを複数の職人が皿に盛ってバケツリレーのように運んで躯体を造り上げるのが一般的です。規模が大きな現場では、生コンを混ぜる部分だけは手動ではなく機械を設置し、そのほかの作業は同様にバケツリレー式で行います。

地震があったのに…

2015年4月に起きたネパール地震では多くの被害があり、ネパールの建築物の耐震が問題となりましたが、その教訓が現在の施工法にあまり反映されていません。

特に建設分野に詳しくない一般のネパール人は耐震に対する関心も低いようです。

また、今年2021年の雨季は雨量も多く、地盤の緩い土地に建てた住宅は水害による問題が多く発生しました。ここでも庶民の対応はいたって通常通りで、土砂崩れによる擁壁の倒壊後、山留めもせずにただ同じように擁壁を立ち上げていくだけで、建築の専門的技術を持っている人の出る幕がないという感じです。

ネパール国内には建築専門の大学や海外で勉強してきた専門家も存在するのですが、一般庶民や建設現場で働く職人たちとのギャップが大きく、なかなか質の高い施工法までには至らないようです。

まとめ

ところ変われば、安全の常識や施工方法も違うネパールの建設現場です。労働基準も緩やかで、請負会社の施工の進め方や施主の意向、現場で働く職人たちによって、現場管理も多様にあり、すべてが緩やかなルールの中で作業が進められていきます。

建設現場で働く職人たちのスタイルは安全性に欠けているようにも見えますが、実際はケガをする人も少なく、頑丈で力強く自由気ままに働いています。

この記事を書いた人

shyu

海外在住ライター/ネパール国籍の配偶者と日本国籍の息子と日本人の私の3人家族。カトマンズに12年暮らす。 海外に住むということは、国籍はもちろん生まれも育ちも違う者どうしが、なんらかの関係性を保ちながら生きる修行をしているようなもの。 今後、日本で暮らし働く外国人が増えて行くことが予想される中、その動向を外国人の心情に寄り添った視点で発信していきたい。

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